神宿る島の美と文化を120%楽しむためのエチケット&スポット

広島の海岸からフェリーでわずか10分。そこに浮かぶのは、古くから島全体が神として崇められてきた聖なる地、宮島(正式名称:厳島)です。海に浮かぶ朱塗りの大鳥居、荘厳な社殿、そして愛らしい野生の鹿たちが、訪れる人々を神秘的な世界へと誘います。
このガイドは、宮島の美しい景観や名所をご案内するだけではありません。あなたがこの神聖な島の文化や歴史に敬意を払い、守るべきルールを理解することで、単なる観光を、心に深く刻まれる精神的な体験へと昇華させるためのお手伝いをします。
特に、宮島のシンボルである鹿との正しい接し方を知ることは、あなた自身と鹿、そして島の環境を守るために非常に重要です。さあ、神々との静かな対話を楽しむ、特別な宮島の旅を始めましょう。
宮島の風景の裏には、1400年以上にわたる深い歴史と信仰が息づいています。その物語を知ることで、あなたの旅はより一層、意味深いものになるでしょう。
宮島の歴史は、推古天皇元年(593年)に厳島神社が創建されたことに始まります。しかし、その名を天下に知らしめたのは、平安時代末期の権力者、平清盛(1118-1181)です。清盛は厳島神社を篤く信仰し、一族の繁栄を祈願して、海上に浮かぶ壮麗な寝殿造りの社殿を造営しました。この独創的で美しい景観が、宮島の原点となっています。
江戸時代には、庶民の間で「厳島詣」が流行し、多くの人々がこの島を訪れました。そして1996年、厳島神社とその背後に広がる弥山の原始林を含む区域が、ユネスコの世界文化遺産に登録され、その価値は世界的に認められることとなりました。

2019年から約3年半に及んだ大規模な保存修理工事を終え、厳島神社のシンボルである大鳥居は、2022年末に鮮やかな朱色を取り戻しました。現在は足場もすべて撤去され、本来の美しい姿を再び海上に映しています。潮が満ちれば海に浮かぶ神秘的な姿を、潮が引けばその巨大な根元まで歩いて行けるという、2つの表情を楽しめる絶好の機会です。最新のデジタル技術を駆使した観光案内所も整備され、より快適に島の魅力を探訪できるようになっています。

宮島へはフェリーで渡るのが唯一の方法です。
宮島内の主要な観光スポット(厳島神社、表参道商店街、大聖院など)は、フェリー乗り場から徒歩圏内にまとまっています。島内は道が狭いため、散策は徒歩が基本です。弥山(みせん)に登る際は、中腹まで「宮島ロープウエー」を利用するのが便利です。
宮島の観光体験は、潮の満ち引きに大きく左右されます。

知っておくべきエチケット: 厳島神社は、現役の信仰の場であり、神聖な「神域」です。大声で騒いだり、走り回ったりするのは厳禁。回廊を歩く際は、静かに景色を楽しみましょう。三脚を使用した本格的な撮影は、他の参拝者の迷惑になるため、混雑時は特に控えましょう。御祈祷など神事が行われている際は、撮影を控えるのがマナーです。

知っておくべきエチケット: 大聖院は宮島で最も歴史の古い仏教寺院です。境内にある「マニ車」は、チベット仏教の仏具で、1回転させるとお経を1回読んだのと同じ功徳があるとされています。静かに回しましょう。「遍照窟」は、四国八十八ヶ所霊場の本尊が祀られており、お遍路と同じご利益が得られるとされる神聖な場所です。静粛に中を巡りましょう。
知っておくべきエチケット: 弥山は古くからの信仰の対象であり、手つかずの自然が残る国立公園です。登山道を外れて歩かない、植物を採らない、ゴミは必ず持ち帰る、という基本的なルールを守りましょう。すれ違う登山者とは「こんにちは」と挨拶を交わすのが日本のハイキング文化です。

知っておくべきエチケット: 焼き牡蠣やもみじ饅頭など、魅力的なグルメが並びますが、箱根と同様に「歩きながら食べる」のは避けましょう。購入したお店の前や、指定の場所で食べるのがマナーです。そして最も重要なのが鹿への注意です。食べ物を持っていると、鹿が近づいてくることがあります。詳細は次章で解説しますが、食べ物を安易に見せない、与えないことを徹底してください。

宮島の鹿は「神の使い」とされていますが、野生動物です。奈良の鹿とは異なり、宮島では観光客が鹿に餌を与えることは固く禁止されています。
なぜ禁止なのか?: 人の食べ物の味を覚えると、鹿が自然の草を食べなくなり、生態系が崩れる原因となります。また、食べ物を求めて人を追いかけたり、お店の商品を荒らしたりする問題にも繋がります。
正しい接し方:
宮島は島全体が貴重な文化遺産であり、自然遺産です。美しい景観と環境を守るため、ゴミのポイ捨ては絶対にやめましょう。喫煙は指定された場所でのみ可能です。

宮島は、ただ美しいだけの観光地ではありません。そこは、神々と自然、そして人々が長い年月をかけて共存してきた祈りの空間です。このガイドで紹介したマナーやルールは、その神聖なバランスを未来へと繋いでいくための、私たち旅行者にできるささやかな貢献です。
鹿を優しく見守り、神域に敬意を払い、島の静けさに耳を澄ませる。そうすることで、あなたの旅はきっと、忘れられない深い感動と安らぎに満ちたものになるでしょう。